Lesson 11:ハーフ体験記

高低差170メートル、走り抜き自信
ペース乱れた前半、声援に背中押され

9月中旬、北海道ニセコ町で開かれた「ニセコマラソンフェスティバル」で、
初めてハーフマラソンに挑みました。
羊蹄山のふもとに設定されたコースは高低差が170メートル以上。
厳しいコースを走り抜くことで、若干ですが神戸マラソン完走への手応えも。
以下は一回りタフになった(気がする)記者のハーフ体験記。
(鎌田倫子)

午前8時、曇り、気温17度。
適度の涼しさはマラソン日和。
周りを見渡すと、日焼けした筋肉質の脚がやけに目につく。
入念に体をほぐす人、瞳に炎がたぎってそうな人と、
記者がこれまで参加した大会に比べ、明らかに本気度は高い。
午前9時29分、スタート1分前のカウントダウン。
心臓がばくばくする。
「周囲の緊張が伝染してきた…」。
直後、号砲とともにハーフの参加者370人がスタート。
記者も押し出されるように駆け出した。

号砲で勢いよく飛び出すランナー。
記者はこの列のずっと後方。
(いずれも北海道ニセコ町)

きつい上り坂

心拍数とラップを測りながらの滑り出し。
目標は、1キロ5分~5分10秒のペース。
最後まで維持できれば1時間45分でゴールできる計算だ。
最初7キロは平たんだが、ペースは4分45秒、5分半と落ち着かない。
練習でつかんだ一定の速さで走る感覚が消えている。
ランナーズ・ハイなのか。
心を落ち着かせて走るうち余分な力が抜けてきた。
沿道では大会関係者が大声で「これから、これから」。
ふと脇を見ると「8キロ地点」の表示があり、行く手には長い上り坂。
すーっと興奮が冷め、息の乱れに気付き、暗然とする。
「まだ半分もきてないのに」コースの高低差は170メートル以上。
神戸マラソンの25メートルほどと比べると、過酷さが分かる。
8キロすぎから14キロ地点あたりまで、トウモロコシ畑が広がる丘陵を
蛇行しながら上っていく。
これがきつい。
普段は臨海部の平たんな住宅街を走っているため、山登りのような坂は未経験。
足が上がらなくなり、急激にペースダウン。
続々とランナーが記者を追い越していく。
途中から数えるのもばからしくなり、悔しさも感じない。
悪いことに雨も降ってきた。

心拍数で冷静に

「不慣れな上り坂、悪天候で体力消耗…」。
言い訳に近い敗因分析がぐるぐる頭を巡ったが、手元のモニターに目をやると
心拍数は160と意外な低さ。
通常の練習時ならば、漫然と走っている状態だ。
「楽をしてはだめだ!」。
自分にむち打ちペースアップし、1人、また1人と抜き去る。
中年のおじさんから「何度走っても苦しいよな」と親しげに声を掛けられたが、
あいまいな笑顔をお返しして抜き去った(初めてだから知りません)。
坂を上りきると一転して急な下り坂。
「挽回してやる」。
転ばないように脚にしっかり力を入れながら、一気に駆け下りた。
上りで追い越されたランナーを次々抜いていくと、周囲を見る余裕も。
給水所の笑顔の女子中学生、トラクターに乗って手を振るつなぎ姿の男性、
軒先に拍手するおばあちゃん。
車の窓から顔を出し「もうちょっとよ」と励ます人。
ニセコ町の皆さん、ありがとう。

汗と雨と…

声援のありがたさが身に染みたのは、残り3キロ地点で待ち受ける急坂。
ランナーが相次いで歩き出すという最大の難関だ。
ここは、町民総出でランナーが通過するたびに鐘を鳴らし、声を掛けてくれる。
やっぱり誰かに見られているという感覚は大事。
体力、集中力はもはや限界なのに、いやでも足が前に出た。
精神論は苦手だけど、声援が背中を押すって本当にあるみたい。
汗と雨、そして鼻水。
知り合いにはとても見せられないような顔で、泣きそうになりながらゴール。
タイムは1時間50分15秒だった。
目標には少し届かなかったが、折れそうな気持ちを立て直したので、
「頑張り度」は及第点を付けてもいいだろう。
数日間、完走した高揚感と筋肉痛は続いたが、余韻に浸っている暇はない。
本番まであと1カ月半。
悔いを残さないように練習を続けねば。

雨が激しくなったゴール付近。
緩い上り坂だが20キロ以上走ってきた
ランナーの脚にはこたえる


(神戸新聞2011年10月5日掲載)


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