大会前の体調管理

  • Q.大会までの体調管理について教えてください。

    A.いよいよ第9回神戸マラソンのスタートが間近に迫ってまいりました。ランナーの皆さまも体調管理に万全を期していただきたいと思います。さて、今回のマラソンを安全に楽しく走っていただくためのポイントですが、これからマラソン当日まで、食事や睡眠を規則正しくとり、当日は気温や天候に留意して、ご自身で無理のない範囲で走っていただくことが一番大切です。
    また、この時期は寒い日もあります。時間が経つと体温が下がり体調不良になることも予想されますので、ウエアの防寒対策も必要です。もし、普段飲んでいるお薬などがあれば、かかりつけの医師に相談の上、当日のお薬の飲み方を確認しておいてください。前日から当日にかけての食事では、走っているあいだに腹痛や下痢になるかもしれませんので、生モノはなるべく避けて、お酒の飲みすぎにも注意してください。マラソン当日の朝食も必ず食べてください。バナナなど、すぐにエネルギー源になるものだけでも構いません。長い時間を走るランナーの方は、昼食を食べずに走ることになり、途中エネルギー不足で完走できない危険性があります。水分補給を含め十分な体調管理をしてください。走っているときに体調が悪くなったときは無理せず自身のペースで走ることが大切です。
    それでは、最後まで神戸の街並みを満喫しながら、楽しく安全に完走してください。

    神戸マラソンメディカル協議会 山根会長

気温に応じた対応策

  • Q.大会当日の気温が心配です。気温に応じた対応策を教えてください。

    A.神戸マラソンは過去8大会、ほぼ同じような時季に開催されていますが、当日の最高気温は12℃~21℃と10℃近い幅があります。またスタート時の気温と最高気温との差も4~5℃あったことが過去3回ありました。
    そこで皆さんが、もっとも悩むのはウエアの選択だと思います。「できれば軽量化したい」「ファッション性にもこだわりたい」といったところでしょうか。各自の走力にもよりますが、特にゆっくりランナーにとってフルマラソンは長丁場です。その間の気温、湿度、日照などの気象変化や、準備不足、体調不良などによる走ペースの不安定さが、深部体温の変調による健康障害を引き起こします。
    前日や当日の気象予報を入念にチェックし、微妙なときは、着脱しやすい服装を準備するのも一つの方法です。ウォーミングアップ時に気温や自身の体調を体で感じてみることも大切です。

    神戸マラソンメディカル協議会 清成委員

競技中に気を付けること

  • Q.熱中症・低体温症のメカニズムと対応策を教えてください。

    A.まず、熱中症ですが、その字の通り、熱に中(あた)る。つまり熱により身体に害を受けることです。スポーツ中だけでなく日常生活でも起こり、夏場に救急搬送が急増することは、みなさんもよくご存じだと思います。これは気温だけの問題ではありません。湿度、直射日光、風などの他に運動強度、時間、服装、暑さに対する馴化も要因になります。特に重要なことは脱水です。水分摂取不足による脱水の進行が、体温上昇を促し、重症になると生命の危機にさらされます。発汗に応じて、こまめな水分補給を心がけてください。万が一、走行中に気分不良、ふらつき、頭痛などの症状が出た場合、直ちに走行をやめて日陰に移動し、走路員に声をかけて下さい。
    一方、低体温症ですが、直腸温が35℃未満の状態のことで、28℃未満は重症と定義されています。制限時間が7時間とながく設定されている都市型マラソンでは、レース中に天候が変化し、時に冷たい雨や風にさらされることがあります。ランナーは最低限の衣類しか着用していないことも多く、疲労によるペースダウンと同時に、汗が冷えて低体温症に陥ることになります。対策は適切なウエアの選択と体調に合わせたペースが維持できる走行、さらに熱産生のエネルギー源である糖質を補給することです。
    私たち医療スタッフは、経験上フルマラソンでは同じ日に熱中症と低体温という真逆の傷病者が発生することに注意を払っています。

    神戸マラソンメディカル協議会 清成委員

  • Q.「ハンガーノック」という言葉をよく耳にします。メカニズムと対策を教えてください。

    A.「ハンガーノック」という言葉は持久系競技の世界で定着した言葉です。別名「ヒットザウォール(壁にあたる)」とも呼ばれます。突然、空腹感に襲われ、壁に突き当たったように失速することからこの名があります。本態はエネルギー切れ、つまり低血糖です。低血糖というと糖尿病の治療中に、インスリンなどの薬が効き過ぎて起こることがよく知られています。しかし健康な人でも特に運動中に、顕著な低血糖を起こすことがあります。脳は常に多量のブドウ糖を必要とするので、血糖値が下がると身体に運動抑制をかけます。そのため脚に力が入らなくなり、走る意欲も失います。低血糖そのものも危険な状態ですが、ペースダウンとともに、いっきに身体が冷え「低体温症」に移行するランナーもよくみかけます。このため、熱エネルギー源である糖質を早い段階から定期的に摂ることが勧められます。

    神戸マラソンメディカル協議会 清成委員

  • Q.神戸マラソンでは、10.8Km地点にバナナを用意していると聞きました。
    マラソン中にエネルギーを補給する必要性について教えて下さい。

    A.マラソンの長い1日を皆さんの日常生活と重ねてみてください。朝、早めの朝食を摂りいざ会場へ。着替えとトイレを済ませ、スタート位置に整列し9時にスタート。よく考えるとゴールに4時間以上かかるランナーは、朝から昼飯抜きで、ずっと動いていることに気がつきます。途中、かつ丼でも食べに寄り道してもいいくらいエネルギー消費をしているわけですが、それに見合う補給ができているでしょうか。レース中は筋肉や肝臓に貯めているグリコーゲン(糖質)を小出しに使いながら走っていますが、内臓疲労も加わって、ぎりぎりまでエネルギー切れを自覚しません。突然「ハンガーノック」に襲われるのはこのためです。
    バナナは高糖質食で、すみやかに血糖を上昇させ、胃腸への負担も少ないことから、マラソン競技にとても適した食品と考えられます。ただ、前のランナーがたくさん食べてなくなってしまったとか、一度にランナーが押し寄せて配給が追い付かないといったアクシデントも想定内にしておいて下さい(精神的ダメージも大きい)。
    各給食できっちりと補給する以外に、使い慣れた糖質食を携行することをお勧めします。

    神戸マラソンメディカル協議会 清成委員

  • Q.AED(自動体外式除細動器)を使用する場合の注意点を教えてください。

    A.まず、AED(自動体外式除細動器)は突然の心停止(心臓突然死)から命を救う為、痙攣を起こした心臓に電気ショックを与える装置です。
    操作は音声ガイダンスにより指示され電気ショックが必要かどうかもAEDが判断します。高度な専門知識を必要とせずに操作することが出来ます。
    AEDがショック可能な調律を検出し必要に応じて電気ショックのエネルギーを充電します。
    ショックが不要な場合は充電がされない為、除細動ショックは実行しません、
    ですから安心して勇気を持って落ち着いて音声ガイダンスの言う通りに操作して下さい。
    倒れた方を見かけたり、眼の前で人が倒れたり、応援を要請された場合はすぐに、意識の確認から呼吸の有無を確認をし、AEDをできるだけ早期に使用できるように心がけて下さい。
    心肺蘇生とAEDの組み合わせで救命率は4倍にもなります。
    AEDが「離れて下さい」と言うまで心肺蘇生は続けることも大切です。
    使用に対して特に注意することは電気ショックを実行する時は必ず周りの人に対して「離れて!」と声を掛けて誰も傷病者に触れていないことを確認の上ショックボタンを押します。ショック実行後も心肺蘇生が必要な場合には速やかに行って下さい。
    最後に緊急時に出くわした場合は、躊躇せず!AEDを怖がらず!最後まで諦めず!を心に刻み意識を持っていただければ一人でも多くの方の救命率を上げることが出来るのではないでしょうか!

    フクダ電子兵庫販売株式会社

  • Q.「水中毒」という言葉をよく耳にします。メカニズムと対策を教えてください。

    A.水中毒とは、必要以上に多量の水分を摂取することによって起こる中毒症状です。
    マラソンなどでは脱水症、熱中症を予防するために、水分を意識して摂ろうとします。 汗で塩分を失った時に多量の水分を摂取すると血液の中のナトリウム濃度を低下させる事になり、それが原因で脳や心臓や筋肉が正常に機能しなくなります。
    熱中症の分類の中に「熱けいれん」がありますが、大量の汗をかいたにもかかわらず、水だけ(あるいは塩分の少ない水)を補給して血中ナトリウム濃度が低下して起こる、痛みを伴う筋肉のけいれんです。
    塩分低下による電解質のアンバランス(これを希釈性の低ナトリウム血症と言います)は、脳の膨張(脳浮腫)、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん発作などの身体症状を起こし、重篤な場合は死亡することもあります。
    人間の体内には様々な電解質がありますが、その中でもナトリウムイオンは細胞外液、特に血管内液の量と浸透圧の維持に極めて重要な役割を果たしています。血中ナトリウムイオン濃度は135〜145mEq/Lですが、一般的にその濃度が120mEq/L以下、血漿浸透圧が250mOsm/kg以下に低下すると、全身倦怠感、食欲不振、頭痛、悪心、嘔吐、無気力、傾眠などの症状があらわれ、濃度が110mEq/L以下、血漿浸透圧が230mOsm/kg以下になると昏迷、昏睡、痙攣などが起こると言われています。
    1999年のヒューストンマラソンで4人のランナーが極度の水中毒で倒れ、昏睡状態に陥った事は有名です。2002年に行われたボストンマラソン時のランナーの水中毒発症についての論文があります。ここには、ゴール後に低ナトリウム血症(<135mEq/L)は全体で13%(62/488)、女性ランナーの22%(37/166)、男性ランナーの8%(25/322)に生じ、3ランナーが重篤な低ナトリウム血症(<120mEq/L)で、それぞれ119、118、114mEq/Lだったと報告されています。結論として走行中の体重増加、長いレース時間、体格指数が低ナトリウム血症に関連していると述べられています。
    チェック症状としては、めまいや吐き気、息切れ、増幅する頭痛(脳の膨張による)、手足のむくみが水中毒の兆候です。

    予防するには、やはり走行中に塩分と水分の両方を補給することが重要で、梅干し、塩飴、スポーツドリンク等を取るように心がけるのが大切です。しかし、一般の人々の予想を裏切り、スポーツドリンクは水中毒の予防には役に立たないという報告もあります。 ニューイングランド医学誌で、ベンジャミン・レビン博士とポールD博士が  「スポーツドリンクは、殆どが水と少量の塩分でできています。 しかし、人は異なった度合で汗をかき、異なった度合で塩分を失う為、のどの乾きを癒す為のスポーツドリンクが誰にでも役に立つ訳ではないのです。 ですから、のどが本当に乾いたと感じた時にしか不必要に水を飲むべきではないのです」と報告しています。
    その意味からは、スポーツドリンクよりも塩分濃度の高い経口補水液(オーエスワン等)が適していると思われます。水分補給量の目安は体格など個人差があり難しいですが、のどが渇いたからと言って一気にがぶ飲みをするのは避け、少量を頻回に分けて摂取することが大切と思われます。

    神戸マラソンメディカル協議会 近藤副会長

レース中及びレース後の体調管理

  • Q.レース中に足が攣る(つる)のが心配です。攣らないための注意点や攣った場合の対応策について教えてください。

    A.レース中やレース後の痙攣が、筋の疲労からくるものだけでなく、熱中症の初期症状や、水分摂取の失敗、筋温の低下など
    様々な要因が考えられます。

    • ①両ふくらはぎや両太もも、腹筋など複数箇所が“つって”いる場合
      直ちに電解質の入った水分をしっかり飲んでください。複数箇所の痙攣がみられる場合は、部分ごとのストレッチ等ではなかなか改善されません。熱中症の初期症状であったり、脱水症状であったりする可能性があります。水分をとらないのは言語道断ですが、水やお茶ばかり飲んでいる方もつりやすくなります。緑茶には利尿作用もありますので、運動中に水分を失うことになります。運動中は内臓の血流が低下し吸収が悪くなるので、レース前からこまめにとり続けましょう。スポーツドリンクには電解質が含まれているのでおススメです。ただしあまりに甘いもの(栄養ドリンクなど)は水分の吸収を遅くするため気をつけましょう。気温が下がると飲む量が少なくなりますが、寒くても運動時には水分と電解質が必要です。気温が下がっても、運動前、運動中の水分摂取はこまめに行いましょう。
      複数箇所の痙攣がみられて、ご自身で飲みものが飲めない体調時には、すぐに救護所に向かいましょう。
    • ②部分的に1箇所だけ“つって”いる場合
      この場合、多い場所はふくらはぎかと思います。重症化も完全に否定はできませんが、まずは部分的にストレッチをして様子をみましょう。(下図参照)。筋は様々な走行をしています。複数の形のストレッチを分けて行うことにより、伸ばし分けが可能になります。
      また、患部を指で揉みこむのではなく、手のひら全体で包み込むように把握し、全体的に圧迫することも痙攣をおさえるのに有効です。軽く圧迫し、かつ寒い時には筋温を下げないためにもふくらはぎの加圧サポーターは有効な場合があります。
      走り方としては、足裏全体で軽く乗り込むように走りましょう。足首を返しながら強く地面を後ろに蹴り続けると、ふくらはぎを“つる”原因となります。蹴るのではなく、身体を足裏全体で支えていくだけで十分に走れますので、試して下さい。

    指や足の裏のストレッチ

    ふくらはぎの把握圧迫

    ふくらはぎ上部のストレッチ(腓腹筋)

    ふくらはぎの下部ストレッチ(ヒラメ筋)

    神戸マラソンメディカル協議会 松尾委員

  • Q.レース中及びレース後の体調管理について教えてください。

    A.金哲彦さんのアドバイスを受けられたのは幸運なことですね。万全の準備で体調を整えられたことでしょう。さて、当院はゴール直近にある救命救急センターです。第1回大会からこれまでにレース中、後の患者さんを多く受け入れました。気を付けないといけないなと思ったのは以下の項目です。



    「激しい全身のこむら返り」
    レース中盤で汗をかき、水分とともに塩分も喪失していると、中等症の熱射病 熱ケイレンを起こすことがあります。激しいこむら返りのような筋肉痛が特徴です。こむら返りのこむらとはふくらはぎのことですが、実は、熱ケイレンでは下肢の筋肉だけでなく全身に起こります。腹筋にもおこるので急性腹症を間違えることもあります。水だけでなく(水ばかりを多く飲むことも問題)塩分(塩タブレット、塩飴、電解質補水液)をレース中こまめに摂取することが予防になります。

    「走行中、体が傾く」
    脳卒中のサインかもしれません。すぐに救護所や沿道のスタッフに声をかけ、救急車を呼んでもらいましょう。第4回大会ではメディカルランナーが蛇行して走っているランナーを発見して救助し、幸い大事に至らなかったことがあります。

    「急に立ち止まらない」
    下肢の筋肉は走行中、心臓に向かって血液を押し戻しています。これをミルキングアクションといい血液の循環を助けています。このミルキングアクションが急になくなると、心臓に向かう血液も少なくなり、一時的に心臓が空うち状態となります。失神や転倒、ひどい場合は致死的な不整脈を引き起こして心臓がとまってしまうことさえあります。レースが終わったあとは急に立ち止まってはいけません。しばらく歩きながらだんだんと運動強度を下げてクールダウンすることが必要です。クールダウンによって筋肉の回復も早まります。

    神戸マラソンメディカル協議会 有吉委員