神戸を感じて走ろう ~KOBE MARATHON トリップRUN~
優秀作品の発表
Trip Run

入選:父と娘と神戸マラソン
愛知県 ペンネーム:ねぎ爺さん

楽しみにしていた神戸マラソン。
妻、3歳と1歳の娘を連れて名古屋から港町、神戸にやってきた。
出走地点近くの宿泊先に荷物を預け、当選した「スルッとKANSAI神戸街めぐり1dayクーポン」を使って、 3歳の娘がとても楽しみにしていたパンダを見るため神戸市立王子動物園に電車で向かった。
3歳の娘も、最近よちよち歩きができるようになった1歳の娘も、動物の動きや鳴き声をまねたりしてとても喜んでいた。
お目当てのパンダも何故か首を振りながら歩いていて、娘はそれが楽しかったようでパンダのマネをしながら30分近くも飽きずに見学していた。
動物園からの帰りは神戸の街並みを見たい気持ちもあって、バスで少し遠回りをして宿泊先に向かった。
久しぶりに神戸を訪れ、思い出すのはやはり阪神淡路大震災。
震災当時、私はまだ高校生で大阪市内に両親と姉の家族4人住んでいたが、狭い住居のため父と同じ部屋で寝起きしていた。
朝の5時45分ごろウツラウツラとしていたら床から「ゴー」という音が聞こえてきて、何事かと思っている間もなく大きな揺れがおこった。
驚きで身じろぎもできなかった。
気が付くと父が僕に覆いかぶさって守ってくれているのに気がついた。
震源地から離れていたこともあり、自宅の周辺にはそれほど大きな被害はなかったが、その時の父の行動が深く印象に残った。
父は4年前、とても楽しみにしていた初孫である長女の誕生を見ることなくその2か月前に亡くなった。
そんなことを思い出し、娘の小さな手を握りながら果たして私は父と同じ行動ができるだろうか。
また身じろぎもできないだろうか。
そんなことを考えていた。

その晩は娘2人がはしゃぎ過ぎ、あまり寝ることができないままマラソン当日を迎えた。
事前の走り込みも足らなかったせいか、レースはのっけから苦しく20km手前で吐き気がしてついに救護所に駆け込んだ。
残りの距離を考えるとこれは棄権したほうがいいなと思い、それも含めての救護所への駆け込みであった。
救護所ではいろいろ世話を焼いてもらい、いろんな言葉もかけていただいた。
そんな中、救護の方から「(気分が落ち着いたのなら)少し頑張ってみて、ダメならまたここに戻って来てもいい。」という言葉を頂いた。
私は高校卒業後、自分の理想どおりに行かないことが多く、最終的には家族と離れ大阪を出て一人名古屋に行った過去があるが、
その出発の日、新大阪駅まで見送ってくれた父が、奇しくも救護所の方と同じ言葉を行って送り出してくれたのを思い出した。

何かに背中を押されるように私は救護所を後にしていた。
走ったり歩いたりだったが、歩を進めるにつれ、だんだん神戸の街並みを見たり沿道の応援にも耳を傾ける余裕も出来てきた。
大阪にいたころよく家族とも来た神戸の街並み、震災の後、父とボランティアに来た時の変わり果てた神戸の街並み、神戸もいろんなことがあってその街並みも変遷している。
けれども、変わらず同じ雰囲気がそこかしこにそのまま残っていると感じた。
この街は上書きされるのではなく、いろんな人の行動やいろんな思いがそこに息づいて、今を、そして明日を創っているのだな。
きっと今の私自身も含めて。
そんなことを考えながら走り、歩き、予定タイムから大きく遅れたが、無事完走することができた。
完走時に小学生ぐらいの女の子から完走メダルをかけてもらったが、それでなぜか疲れが吹っ飛んだ。
完走できて良かったなと素直に思えた。

11月も半ば、神戸マラソンも終わり思ったより早い夕暮れのなか、公園でままごと遊びをする2人の娘を妻と見ていた。
これから娘2人もいろんなことを体験し、いつか困難にも出会い挫折もするだろう。
そんな時は、あの日、あの時の父のように、いつでも私が迎えてあげよう、またもしもの時は身を挺して守ろう。
そして今回の私のレースのように、理想どおりじゃなくても、自分のペースで自分の走り方で今を、明日を創ってくれればいい。
そんなことを思いながら私は神戸を後にした。

(王子動物園で念願のパンダ)

優秀作品 一覧

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父と娘と神戸マラソン
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